アメリカの危機管理


公益財団法人 東京防災救急協会発行の「自主防災」に連載させていただいている「アメリカの危機管理教育は今?」より抜粋して掲載しています。

 

※当コラムの無断転記・コピーを禁じます。 


【第1回】

◆アメリカのFEMA(危機管理庁)のダイナミックな挑戦

アメリカにはFEMAという組織があります。

カーター大統領が設立した組織です。当時アメリカで頻繁に起こっていた山火事や台風、竜巻、吹雪など自然災害に大統領直轄の組織として発足されたのです。

 

有名な活動ではカリフォルニアのノースリッジ大震災です。この時FEMAは世界を驚かせる働きをして、地域の復興を成し遂げました。

しかし2002年ブッシュ大統領の時に国土安全省の一部門としてテロなどに注力する新設省に吸収されました。省の長官も消防経験者からテロ系の経験者に変わり組織は大きくなり、フレキシビリティがなくなりました。その失敗例はニューオーリンズを襲って大きな被害をもたらしたハリケーンカトリーナでした。テロ系のトップでは災害の後、素早い行動がとれなかったのです。

 

そこでアメリカ政府はFEMAに対し個人レベルに届ける災害時の対処方法を教えるCERTを発表させ、国民に防災対応力を身に付けさせるプログラムを自ら教え始めさせたのです。このCERTについては、次号で詳しく説明をしたいと思います。

私もCERTの一部を既に消防団や地域の人々に届けています。シカゴのFEMAを訪ねて当時の最新プログラムブックを頂き勉強させてもらいました。

 

 

◆アメリカと日本の災害教育の違いは何でしょう?

それは公的機関、公助への依頼度の違い。

極端に言えば、アメリカは公的機関を災害時の混乱の中、当てにしていない。そして公的機関も出来るだけ住民に共助と自助を求める。

日本は公的機関(公助)を中心に考える。

そのため避難所は地域の全住民の20%しか入れないのに、住民は、ぼんやりと皆入れると考えている。そのため共助や自助はあまり重要とは思っていない。避難所に行けば食事も、お風呂もなんでもある。1日から3日までは混乱のため食事も手に入らないなんて誰も考えていない。

公的機関も公助の限度は言わない。子供に対する親のように守ろうとする。

 

残念ながらマンパワーには限度があるのです。また危機管理部隊は地域の危機管理の部分を一番に守り抜かなければならないのです。そこが崩れると地域は復興に気が遠くなるような時間を要するようになるのです。

それが災害国日本の住民が目覚めない理由の一つかもしれません。

 

◆変化の兆し

日本の防災訓練は各地の消防隊が本当によく実施しております。私も何度も体験しております。

又、近年では東京消防庁による消火栓を使える街かど防災訓練が開始され、色々変化もみられており、実際に災害時に利用できる高い技術を、使用しやすい装備を準備するなど工夫を加え、住民に届け始めております。

その訓練時の写真などを見ると、住民が一生懸命にホースを構えて放水して、おり実質的な訓練が行われるようになったな、という思いがします。

 

災害時には大きな力を発揮するのは具体的な情報と高い技術を砕いた実施可能な技術です。それを手にいれられるようになれば、私たちは確実に被害を少なくできます。

静岡ではトリアージを住民に届けています。奈良では消防団に住民のショックを和らげるお手伝いをする本格的な訓練を実施しています。

もっとたくさんの試みが日本中で始まっているのではと思います。

 

◆アメリカの防災教育は個人レベルに舵を切っています

アメリカは共助や自助をいうのですが、そのため普段からの訓練に重きをおきます。

まずFEMAに賛同している消防署、警察、医療などの関係者が個人を鍛え、鍛えられた個人が家を、家族を守る。

そしてそれは地域と会社などを守ることに繋がっていきます。

 

 

次号はその災害時対応のプログラムCERTについてお話します。

 

【第2回】

Community Emergency Response Team

◆FEMA発“CERT”プログラム

先回お話した個人仕様の米国危機管理庁発コミュニティー緊急対応チームプログラムについて今月は提供いたします。

これはFEMA(米国危機管理庁)が育ててきた市民による災害ボランティア組織です。

1980年代に作成され、今ではホームランドセキュリティ(米国国土安全保障省)に属しております。

また、2008年テキストが標準化され現在使用されているのは2011年度版“サート”です。その後新たに10代の青少年にこのスキルを教えるTEEN CERT(ティーンサート),大学生達に学生緊急対応チームSERTプログラムも作成され、こちらは昨年2015年度にアップデートされたテキストが出ました。 

アメリカは日本の25倍もの広大な国土ですので様々な災害が多発している国です。

代表的なものは台風や竜巻、洪水そして冬の嵐と山火事などです。アメリカでは地震は太平洋側、カリフォルニア州で起こる災害です。他の地区では起きていません。そのような中、災害時は救助、救命のプロである消防士たちが絶対的に足りない現状です。この訓練の内容は個人の災害対応スキルに力をいれていて、消防と病院は消防士や医者や看護婦の持つ高度な知識と技術をセミプロレベルで教えます。実際の家庭や地域ですぐに家族や近所の人々の命を救うために大きな働きをすることができるレベルです。“自分の命は自分で守る”アメリカ人らしい実質的なプログラムです。

全部で9つの章で構成されています。
Chapter1:Disaster Preparedness:災害対応準備
Chapter2:Fire Safety and Utility Controls:火災、ユティリテー確認、危険物認識
Chapter3:Disaster Medical Operations part1:災害時医療オペレーション1
Chapter4:Disaster Medical Operations part2:災害時医療オペレーション2
Chapter5:Light Search and Rescue:軽度の捜索と救助
Chapter6:Cert Organization:サート現場組織
Chapter7:Disaster Psychology:災害心理学
Chapter8:Terrorism and Cert:テロとサート
Chapter9:Course Review Final Exam and Disaster Simulation:コース復習、最終テストと災害シュミレーション提供


現在アメリカ全州で教えられているプログラムです。特に3章から8章まではとても興味のある実質的なプログラムとなっております。

◆プログラム内容

◆Chapter3,4 : Disaster Medical Operations part1

災害時医療オペレーション1,2

この中の災害時医療(Disaster Medicine)で教えられている救命のためのトリアージが特にアメリカらしいものです。実際に災害時に医師がおこなうやり方を一般の人たちが理解できるように解説していきます。日本ではまだまだ市民に開かれていない分野です。災害時は病院も集約的にお医者さんを大きな病院に派遣して多くの重症患者に備えます。

 

私たちは地域に取り残されてしまいます。セミプロ並みのボランティアがいて初めて具体的に動けるのです。何も知らないと人は怖さを感じてしまいます。その大きな疑問に対する答えともなっているのがこの章のトレーニングです。お医者さん、医療関係者たちが住民のために作り上げたプログラムです。

 

一部を紹介すると、外傷を受け死に至ったケースでは

タイプ1 生命を維持するために重要な器官への重度の損傷による数分以内の死

タイプ2 数時間の多量の出血による死

タイプ3 数日間または数週間に及ぶ伝染病、多様な損傷による死

という状況です。

 

タイプ2 , 3 の負傷者の40%以上の人が助かったとされる対処法について説明します。

命を脅かす危険な“殺人者”は

①気道障害、②呼吸障害、③循環機能系障害(出血)、④ショック状態、です。 

その殺人者を理解してケガ人の検査に入ります。

被災者の身体を触りながらまず気道障害と呼吸障害を検査します。意識の確認をする呼びかけをします。何も返事がない場合、すぐに呼吸の有無を確かめます。頭を後ろに傾け、顎を持ち上げます。胸の上下の動きや鼻や口から息をしているか確認です。

息をしていないようなら口の中に何か詰まっているものがないか、もしあれば掻き出して気道を開ける状態を続けます。呼気は入れなくてもよいので気道を30分以開け続けます。

ここで応答なしでしたら、残念ながらこの被災者は死亡している人として区別した場所へ置きます。

 

もし息を吹き返したらすぐに脈をとります。

1 分間に30回以上か30回以下かによって判断しますが、30回以下だったら、すぐに重傷者として医者の所に搬送する人のグループへ運びます。ショック状態時の処置を施しておきます。ショック状態時の処置というのは毛布などを使って足の部分を高くして低温にならないように毛布などを掛けてあげます。

 

止血と循環機能の確認をします。

止血は直接圧迫をします。出血が見当たらない場合は循環機能のチェックをします。爪や唇をグーと押しますと、爪や唇が白くなります。健康な時はその抑えている指を離すと1 , 2 秒でピンク色に戻ります。それは循環機能に異常がないときです。

2 秒以上たって、ようやくピンク色が戻ってきたときはどこかで出血しています。すぐに止血をするため身体を調べます。

背中をみるのを忘れてはいけません。背中の下に手を差し込んで移動させて検査します。でも特に大変な出血は内臓です。おなかの中で内臓が傷つき出血した場合、外からはわからないのです。そのようなときはおへそを中心4か所のおなかを押していきます。ギュッと筋肉がしまりお腹の部分固くなっているのか(痛みがあると人間はお腹に力が入ります)、腫れてブヨブヨしているのか調べていきます。

もし元気もなく真っ青な顔をしていたらすぐに重傷者として医者の所に搬送する人のグループへ運びます。

最後に意識レベルの確認をします。

 

質問をして確認するのですが、

「今日は何月何日ですか?」

「名前を教えてください。」

「自宅の電話番号は?」

「右手を上げてください。左足を動かして。」などと具体的にします。

 

もし質問に反応があったら重症とは違う場所の救護所で定期的な検査をしながら様子をみます。もちろん意識が確認できない人はすぐに重傷者のところに連れていきます。

 

このように具体的な重傷者の見分け方が教えられていれば、個人単位でも、家族単位でも自治会単位でも被災地で最初から動くことができます。